5S・改善活動は、日本の企業や工場だけにとどまらず、世界各国へ広く普及し、発展を続けている。
その代表的な事例の一つとして、South Africa における5S・改善手法の導入が挙げられる。2025年に University of Johannesburg の工学技術実験室で実施されたこの研究は、生産現場ではない教育機関において、多文化的で若い構成員を持つ組織の中で5Sを定着させ、実際の成果につなげた点で国際的な注目を集めた。研究成果は2025年11月に MDPI の学術誌『Engineering Proceedings』に正式掲載され、リーン生産方式における5S手法が実験室環境でも有効に活用できることを実証的に示した。
研究実施前、その実験室では多くの大学に共通する課題が見られた。具体的には、工具や器具の配置が明確でなく、使用頻度に関係なく保管されていたこと、老朽化または使用されていない資材が多く残されていたこと、清掃が定期的に行われていなかったこと、さらに安全管理上のリスクが高かったことである。その結果、学生や実験補助員は必要な器具を探すのに多くの時間を費やし、授業や実験の進行が遅れ、実験室のスペースも十分に活用されていなかった。研究チームは、これらの問題を大きな設備投資を行わずに、5S・改善の基本原則のみで改善できると判断した。

最初の段階である整理(Seiri)では、実験室内にあるすべての工具・資材・設備を一覧化し、頻繁に使用するもの、あまり使用しないもの、使用できないものに分類した。さらに不要な物品は一時保管エリアへ移し、一部は完全に撤去したことで、利用可能なスペースが大きく増加した。この段階が、その後のすべての改善の基盤となったと研究者たちは指摘している。
次の整頓(Seiton)の段階では、工具や器具を使用頻度、安全性、作業動線に基づいて配置し直した。使用頻度の高いものは作業台の近くで見やすい位置に置き、使用頻度の低いものは別の区画に整理した。また、棚や引き出しに視覚的なラベルや色分け表示を導入したことで、「どこに何があるべきか」が一目で分かる環境が整えられ、5Sの目的に合致した作業空間が実現された。
清掃(Seiso)の段階では、単なる一度きりの清掃ではなく、日常業務の一部として継続的に実施した点に特徴がある。本研究では「清掃=点検」というリーンの考え方を取り入れたことで、清掃を通じて設備の摩耗・故障・異常を早期に発見する習慣が形成された。その結果、設備トラブルへの早期対応が可能となり、安全管理の意識も向上したと報告されている。
清潔(Seiketsu)の段階では、工具の配置、清掃の手順、使用後の整理方法などを図や簡潔な説明として標準化し、実験室の壁面に掲示した。これにより、実験補助員だけでなく、新しく実験室を利用する学生にも分かりやすく、言語的な負担も少ない運用体制が整えられた。標準化は、一時的な改善ではなく、継続的な習慣づくりの基礎となった。
最後であり最も重要な段階である躾(Shitsuke)では、研修、責任分担の明確化、定期的な内部チェックが導入された。学生、教員、実験補助員を対象にした短時間の研修では、5Sの目的と意義が共有され、「整理整頓は単なる管理ではなく、組織文化である」という考え方を定着させることが重視された。これが成功の重要な要因となった。
このような5Sの導入によって、定量的・定性的の両面で明確な成果が確認された。実験室における1回あたりの作業時間は平均78.6秒短縮され、週あたり合計632秒の時間削減につながった。また、全体の作業効率は54%向上した。さらに、安全性、利用者の満足度、作業環境の清潔さも改善され、大学が掲げる「Green University(持続可能な大学)」の方針にも合致する成果となった。
この事例は、5Sが製造業に限らず、教育機関のような非製造分野においても有効に適用できることを示しており、5S・改善が世界的に広がる理由を裏付ける代表例である。





